夜籠もりの下弦は恋を知る


 わずかな期間で、都は福原から京へと戻った。

大きな理由としては、重要な祭式が行える施設が整ってないこと、小さな理由では波の音がうるさいだの、潮風が激しいだのといった様々な文句が出たためであるが、念願であった福原を捨てる清盛の思い切りは意外と潔かった。




 さて、さっさと京に戻ってきた平家一門にさらなる面倒な事件が持ち上がった。


「重衡様が奈良へ…?」

「はい」

今宵は月が雲に覆われ、闇が一層濃い。

輔子と褥を共にしながら、重衡は言いにくそうに言葉を選ぶ。

「興福寺の僧どもが平家に対して牙を剥いているのです」

奈良へ暴徒を討ちにゆく。

重衡は重々しく口を開いた。

「近々、私が大将軍として出陣します」


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