夜籠もりの下弦は恋を知る
(大将軍…)
輔子は維盛のことを思い出した。
今回は重衡が大将軍として軍を指揮するのだ。
「…重衡様」
不安が心をよぎる。
彼女は夫の安心できる胸に身体をぴたりと寄せた。
「負けないで下さい…死なないで下さい…生きて…輔子のもとに帰ってきて下さいませ…」
涙声の妻に気づき、重衡はあやすようにそっと抱きしめた。
「わかりました。必ずや、生きて貴女のもとへ帰りましょうぞ」
「負け戦は赦しませぬゆえ…!必ず勝ってお帰り下さい!」
「おや、こだわりますね。…さては、維盛殿のことを誰かから聞いたのですか?」
簡単に見透かされ、輔子の口がへの字になる。
「維盛殿なら、無事ですよ。流罪は取り消されました」
「そうですか…。良かった…」
この答えに、とりあえずホッとした。
そのあからさまな態度に、重衡は苦笑する。
「愛しい方…。私を信じて待っていて下さいね…?」
「はい」
輔子は彼の腕の中で祈るように目を閉じた。