夜籠もりの下弦は恋を知る


 そして、重衡は大軍を率いて奈良へ赴いた。

これが、後の彼の運命を決定づける宿命的な戦となるのであった。






「火をつけよ」

奈良での夜。

暴徒との戦闘が夜間まで続いたため、明かりが必要になった。

重衡は部下に命じて火を用意させる。

部下は楯(タテ)を割り、それを松明(タイマツ)として、民家に火をかけた。

住人は皆避難し、民家は空っぽで誰もいない。

戦で家が燃やされることなど当たり前だったため、ためらわずに行われたこの行為。

だが、これが最悪な結果をもたらした。





「大仏殿が燃えてるぞ!!!!」




東大寺の本堂である大仏殿が、焼失。

重衡が命じて放った火が、寺に飛び火してしまったのだ。


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