夜籠もりの下弦は恋を知る
陽が傾き、夜の闇が静かに迫りつつある時刻。
「輔子…」
待ち焦がれた彼が吸い寄せられるかのように、傍にやって来た。
「お帰りなさいませ、重衡様」
輔子は優雅に一礼した。
「ご無事で何よりでございます」
「………」
何も返答がない。
(重衡様…?)
彼女は夫の沈黙を訝しみ、顔を上げた。
そして、目を丸くする。
「重衡様…!?」
重衡は、泣いていた。
ぽろぽろと涙をこぼすその姿は、勝ち戦をして凱旋した者のそれではなかった。
「いかが致しましたか!?重衡様!?」
慌てて近寄る輔子を、重衡は乱暴に抱きしめた。
そして、子供のように泣き続けた。
「私は…何という、ことを…!」
嗚咽の合間に漏れ聞こえる声は、後悔と懺悔。