夜籠もりの下弦は恋を知る


 陽が傾き、夜の闇が静かに迫りつつある時刻。

「輔子…」

待ち焦がれた彼が吸い寄せられるかのように、傍にやって来た。

「お帰りなさいませ、重衡様」

輔子は優雅に一礼した。

「ご無事で何よりでございます」

「………」

何も返答がない。

(重衡様…?)

彼女は夫の沈黙を訝しみ、顔を上げた。

そして、目を丸くする。

「重衡様…!?」

重衡は、泣いていた。

ぽろぽろと涙をこぼすその姿は、勝ち戦をして凱旋した者のそれではなかった。

「いかが致しましたか!?重衡様!?」

慌てて近寄る輔子を、重衡は乱暴に抱きしめた。

そして、子供のように泣き続けた。

「私は…何という、ことを…!」

嗚咽の合間に漏れ聞こえる声は、後悔と懺悔。


< 112 / 173 >

この作品をシェア

pagetop