夜籠もりの下弦は恋を知る
「何百、いや…何千という人の命を、私は…死に追いやった…!」
しぼり出される悲痛な声を慰めるように、輔子は言った。
「貴方様のせいではございませぬ。戦では、人の死は致し方ないことです」
これに、重衡はゆっくりと首を横に振った。
「……違う…違うのです。私は…子供も女人も老人も…全て、殺してしまった…。無関係な多くの民を巻き込み…大仏殿まで焼き払い…御仏からも人からも憎まれ怨まれる存在と、なってしまった…」
大仏殿の焼失。
火災による大勢の民の死。
「私は、どうすれば良いのでしょう…」
独り言のように呟かれた問い。
「恐ろしいのです。このような罪を犯した私が、その報いを受けぬはずはありませぬゆえ…」
幼子が母にすがるように、重衡は輔子の身体を震える両腕で押さえ付ける。