夜籠もりの下弦は恋を知る
「ならば、甘えて下さいませ。夫を支え、甘やかすのも、慰めるのも、叱咤(シッタ)するのも全て妻の務めにございますから」
笑顔で言い切る妻に、夫は苦笑い。
「全く…貴女は………」
――愚かなほどに、優しいのですね
重衡は先程までの頼りない態度を普段のものに戻そうと、明るい声を出した。
「申し訳ございませぬ。弱い自分をさらけ出して、貴女に心配をかけさせてしまいましたね」
それから彼は微笑もうと努力し、失敗した。
「輔子…」
「何でしょう」
「明日からは…もう泣きませぬ。しっかりと心を整理して、全ての罪を背負って生きていく覚悟を決めます。ですから…今宵は…今宵だけは…」
(この弱い自分を、隠さなくてもよろしいですか…?)
囁かれた問い掛けは、祈りのように儚いものだった…。