夜籠もりの下弦は恋を知る

重衡の指摘に知盛は重々しく頷いた。

「私も、同意見だ」



こうして、平氏方はそれぞれが守備していた場所を離れ、一度、都にある屋敷に戻った。



そして、その晩。

「輔子、明日ここを発つことになりそうです」

重衡は妻に西国へ行くことになると告げた。

「そうですか…」

不安そうに顔を歪める輔子。

「どうかお顔を曇らせないで…。すぐに帰って来れましょう」

慰めを言う夫に、彼女は目線を合わせず心の内を漏らした。

「……近頃、戦続きで…いずれこのようなことになるのではと、常々不安で胸が苦しゅうございました」

「輔子…その…」

「何もおっしゃらないで下さいませ。輔子はとうに覚悟を決めております。私も、共にお連れして下さりますか?」


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