夜籠もりの下弦は恋を知る
「源氏が攻め寄せてきたあの日、維盛は北の方と子供たちを京に残して、自分一人だけ西国に逃げました」
福原を捨て、九州に赴き、四国へ辿り着いた一門の中に、維盛の妻と子はいなかった。
「一門、皆自分の家族を連れていきましたが…維盛だけは…そうしなかったんです」
「何で…?」
「ちゃんとした理由は聞いてませんが…きっと、愛ゆえですね」
「愛…?」
潤は理解に苦しんだ。
(好きな人を置いていくことが、愛…?)
「平家の未来が危うかったあの時、自分と共に来て死を突き付けるよりも…少しでも安寧に生きてほしかった…」
重衡は潤と共にあることで愛の深さを示したが、維盛は逆だった。
「維盛らしいですよ…」
どちらが正しい愛情かなんて、比べることはできない。