夜籠もりの下弦は恋を知る
「『さん』はいりませんよ、潤」
いつの間にか重衡は潤を呼び捨てにしていた。
「さあ、もう一度」
「…し、重…衡…」
小さな声だが、本人にはちゃんと届いた。
「…もう一度」
「重、衡…」
幸せを噛み締める。
「貴女に呼ばれると、この名も特別に思えてくる……ありがとうございます」
名前を何度も言わされ頬を赤くしていた潤だったが、唐突に思い出したように付け加えた。
「でも、結婚するのは大学出てからね。就職とか、いろいろちゃんとしたいし」
焦ることはない。
潤の思いを重衡は汲み取った。
「はい。わかりました」
(少し残念ですが、貴女と共に歩めるのなら…悪くない)