夜籠もりの下弦は恋を知る
輔子の小さな祈りを、天の神仏が聞き届けられたのだろうか。
それからしばらくして、何の前触れもなく彼女のもとに重衡は姿を現した。
とある日の午後。
「輔子…」
待ち望んでいた愛しい声が聞こえた。
「重衡様…!?」
輔子は走り、御簾に近寄った。
「輔子…」
再び声がした。
彼女がそっと御簾を押し上げ外を確認すると、縁側に寄り掛かっている重衡を発見した。
「し…重衡、様…」
記憶の中の夫よりもやせ細った彼は、汚れた着物をまとっていた。
そのせいか、少しだけ小さく見えた。
「輔子…」
「重衡様!!」
会いたかった。
ずっと、待っていた。
彼女は夫の姿を目にすることができ、感極まった。