夜籠もりの下弦は恋を知る

「さあ…これを形見として、お持ち下さい」

呆然としながら受け取ると、輔子はとうとう泣き出した。


「私も、壇ノ浦で海に身を投げるべきでしたが…貴方様が死んだという知らせはなかったので、もしや…再び、お目にかかることができるやもしれぬと…今まで生き延びて参りましたのに…。真に、今日が…最後となるなんて…」


とめどなく溢れる涙を袖で拭いながら、彼女は立ち上がった。

そのまま奥の部屋へ消えると、何かを抱えてすぐに戻ってきた。


「これを…。お召しかえなさいませ」

彼女が持ってきたのは、新しい小袖と白衣だった。

「そのお姿では、あまりにもみすぼらしく見えますから…」

重衡は妻の心遣いをありがたく受け、それらに袖を通した。


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