夜籠もりの下弦は恋を知る
「では、これも…形見に…」
今まで着ていた汚れた着物を輔子の前に置く。
輔子はそれを大切そうに抱えながら言った。
「これも、お形見ではございますが…できることなら、貴方様のご筆跡をいただきとうございます」
そして硯(スズリ)を用意すると、重衡は頬も心も涙で濡らしながら、一首の歌を書いた。
『せきかねて 泪(ナミダ)のかかる からころも 後の形見に ぬぎぞかへぬる』
――悲しみに耐え切れず流す涙で濡れた衣を、後々までの形見としてぬぎ替えておきます
それを見ると、輔子はすぐさま返歌を詠んだ。
「ぬぎかふる ころももいまは なにかせん けふをかぎりの 形見と思へば…」
(ぬぎ替えた衣も、今となっては何になりましょう。今日が最後の形見と思いますと…)