夜籠もりの下弦は恋を知る
「いってらっしゃい」
笑顔で息子を見送ると、母親は幸せそうな溜息をついた。
「潤衡は元気ですね。はしゃぎすぎて怪我をしなければいいですが…」
玄関に姿を現した夫に、彼女は苦笑する。
「心配性だな、重衡さんは」
「フフッ、潤…二人きりですから、『さん』は無しで」
「あ…えと…し、重衡…」
頬がほんのり赤くなる。
いまだ馴れないのか初々しい反応に、重衡は満足げな笑みを浮かべた。
「潤…」
「何?」
――愛してます…
幸せをくれて、ありがとう。
貴女がいたから、今の自分がいる。
重衡は心からの感謝を、愛の言葉にのせた。
もう、彼らの月は欠けない。
下弦の月は新月を経て、再び満ちたのだから…。
〈終〉