夜籠もりの下弦は恋を知る
今朝も潤(ウルウ)はあの夢を見た。
(毎度毎度、同じだからバッチリ覚えてるんだよね。私が男の人に「行かないで」って縋る夢…)
春の穏やかな風が、彼女の髪をいたずらに揺らす。
(ま、そんなことより今は今日の英単語に集中集中)
高校二年生は忙しい。
毎朝、英単語の小テストが待っている。
潤は学校までの道のりを、単語帳片手にのろのろ歩く。
(えっと…increaseは…「増える」だったかな?)
よそ見をしながら歩いていたからだろう。
彼女は悪気なく、前方を行く人のかかとを踏んでしまった。
「あっ!すみません!」
とっさに後ろから謝罪の声をかける。
すると、被害にあった人物が振り返った。
「いえ、大丈夫で…」