夜籠もりの下弦は恋を知る

「彼女は内侍(ナイシ)となられたばかりですが、気立ての良さで周りの女房たちから好かれているとか」

大納言佐殿。

本名、藤原輔子。

彼女は内裏の温明殿(ウンメイデン)に安置されている神鏡に奉仕する「内侍」と呼ばれる役目を担っていた。

要するに、国にとって貴重な三種の神器の一つである鏡をお世話するよう任されていたのだ。

内侍は佐(スケ)とも呼ばれていた。

これに父の大納言の役職名を加えて、「大納言佐殿」として周囲から親しまれていたのだった。

「そうですか…」

重衡はぼんやりと彼女が通り去った方向を見つめた。

(一瞬、目を奪われた)

ただ、それだけのこと。

なのに、何故なのか。

(胸が、高鳴った…)

輔子と重衡との縁は、彼女が知らぬところで始まっていたのだった。








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