夜籠もりの下弦は恋を知る


 月が欠けることを知らぬある満月の夜。

平家の貴公子が、女を抱く。

月に負けず劣らず美しい彼は、馴れ親しんだ女房を褥(シトネ)に優しく押し倒した。

「今宵はうれしゅうございます。私のもとにおいで下さるなんて…」

心から嬉しいのだろう。

女房は貴公子の首に腕を回した。

「重衡様…」

平家の貴公子――重衡は妖しい微笑を送り、女房の首筋に口づけを与えた。

「どうか、何もおっしゃらないで下さい。今宵は甘く胸が高ぶっているので、貴女の切ない声が私を獣にしてしまう…」

重衡は自分では抑えきれない興奮を隠しもせず、性急に情事を進めていく。

(あの方を見てから、胸の鼓動が鳴りやまない…)

大納言佐殿。

今日一日、昼間見た彼女の横顔がちらついて仕方なかった。


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