夜籠もりの下弦は恋を知る
「はあ…」
「どうした重衡。溜息などついて」
「知盛兄上…」
屋敷の内で一人、ぼんやりと柱にもたれていた重衡に、珍しく知盛から声をかけた。
「思いわずらいか?」
「いえ…ただ近頃、親しい女房と共に一夜を過ごしても、気が晴れぬのです」
「ほう…?」
知盛は「病気か?」と疑ったが、どうやら病気は病気でも別の種類のものらしかった。
「なぜだか、あの日から…」
「あの日?」
「はい。兄上も共にいらっしゃったでしょう?大納言佐殿をお見かけした日です」
「ああ…」
あの日か、と納得し、はたと事情を飲み込む。
「もしや、重衡。そなた、彼女に懸想しているのか?」
ちらりと弟の表情を見てみると、当の本人はこの質問に本気で悩んでいるらしかった。