夜籠もりの下弦は恋を知る
「やはり、そうなるのでしょうか…?自分でも曖昧で…この思いになんという名をつければいいのやら…」
「馬鹿者が…簡単だろう?」
「え?」
「恋だ」
直球な兄に、しばし目を見開いて考える。
「…そうですね。兄上は正しいです」
それから重衡は自嘲気味に笑った。
「昨夜お相手をした女房にも『誰のことを思い私を抱くのですか?』ときつく叱られてしまいました」
「ほう…それはそれは」
知盛はクスリと笑み、ある歌を口にした。
「『忍ぶれど 色に出(イ)でにけり わが恋は』というやつか」
下の句を重衡が引き継ぐ。
「『物や思ふと 人の問ふまで』…確かに、その通りですね」
過去の人間が詠んだこの歌が、今の重衡にはまさにピッタリだ。
「さて、ではどうやって口説き落としましょうか…」
悪戯っ子のような瞳で平家の貴公子は微笑んだ。