夜籠もりの下弦は恋を知る


 輔子が緊張と恐怖でいっぱいいっぱいだったこの日、清盛の息子、重衡はいつも通り維盛(コレモリ)を引き連れて高倉天皇のお相手をするため内裏を訪れていた。

さて、その帰り道。

「重衡殿、前々から言おうと思っていたのだが…」

「何か?」

「女房方と親しいのもいいが、もう少し平家の公達(キンダチ)としてわきまえられぬか?」

この維盛という男は清盛の嫡男である重盛の長男で、年頃は重衡と同じくらいだ。

要するに、重衡は彼にとって「おじ」であり、一緒に色々と悪さをする仲でもあった。

「わきまえる、とは?」

「単刀直入に言おう。妻を娶(メト)れ」

「簡単に言わないで下さい。私にも色々あるのですよ」

そう。

色々あった。

あれから何度か文を送ってみたりした重衡だったが、如何せん大納言の娘なだけあってガードが固い。


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