夜籠もりの下弦は恋を知る

おそらく文は彼女まで渡らずに、傍に仕える女房が没収しているのだろう。

でなければ、全く返事がこないのは重衡に全く興味がないという意思表示になる。

(はあ…本当に恋しい方には、なかなか伝わらないのものですね。焦がれてやまない、この胸の苦しみが…)

女房たちから人気があり、自分の容姿のよさは理解しているため、会えば強引にでも口説き落とす自信はあった。

しかし、今の状況では会うことすら敵わない。

次はどんな手で挑もうか、あれこれ考えているところなのだ。

「ほほう…重衡殿でも女人に対して悩み事を抱えるものなのか」

「維盛殿…」

重衡は溜息を吐き出し、笑みをつくった。

「今日は天気もいいですし、後ほど、流鏑馬(ヤブサメ)でも致しませぬか?」

彼の麗しの微笑みが腹黒そうなものに変わる。


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