夜籠もりの下弦は恋を知る
維盛は静かな威圧感に、ゴクリと生唾を飲み込んだ。
「や、流鏑馬は遠慮しておこう」
「そうですか。残念」
維盛は重衡に流鏑馬での勝負で勝った試しがない。
暗に「ストレス発散したいから付き合え」と言ってきたおじからすかさず逃げる。
「ほ、ほら、屋敷に着いた!そんな真っ黒な笑顔は早く捨ててしまいなさい!皆が驚く」
維盛が同年代のおじに気圧されていると、平家の屋敷が何やらざわついていることに気づいた。
「何事か?客人でもいらしているのだろうか?」
維盛が呟くと、重衡が考えるよりも速く行動した。
「重衡殿!?どちらに!?」
「客人ならば私も挨拶くらいしなければ」
そう言うと、すたすたと屋敷の奥へと入っていく。
「待たれよ重衡殿!私もご一緒するゆえ!」
慌てて維盛も後に続いた。