夜籠もりの下弦は恋を知る


 ゆったりと歩く重衡。

少し足音を響かせる維盛。

二人は客人がいるであろう部屋の近くまで来た。

すると、静かに立っている知盛を発見した。

「兄上?どうしました?」

「しっ、静かに」

知盛に言葉を遮られ、二人は不思議そうに黙った。

「どうやらお客様は藤原邦綱殿とその娘らしい」

奥の部屋の様子に聞き耳を立てている知盛に、維盛が聞き返した。

「というと…?」

「大納言佐殿がいらしている、ということだ」

この報告に重衡は忘れもしない彼女の横顔を思い出した。

「あの方が…!?」

無意識に高鳴る心臓。

「何用かはわからぬが…大方、父上がお呼びしたのだろう」

「お二人とも、お静かに!話し声が聞き取りづらくなる!」

知盛同様、ちゃっかり聞き耳を立てる維盛。

そして、彼らは平家棟梁のとんでもない発言を耳にしてしまった。







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