夜籠もりの下弦は恋を知る
春を楽しむ鳥の鳴き声が、庭から輔子の耳に届く。
「え…?あの、清盛様…今、何と…?」
しかし、輔子はその風流を味わう余裕などなかった。
「これ輔子、清盛様に無礼であろう」
「いやいや、構わぬ。…輔子殿、わしの息子の妻になってくれぬか?」
「………私、が?」
にわかには信じられない。
(あんなに色々思い煩いをした結果、会っていきなり嫁ぎ話ですか!?)
しかも清盛の息子はいっぱいいる。
(一体、どなたに嫁げというのでしょう…?)
輔子がグルグルと考えていると、清盛が言い出した。
「丁度良い相手というと…知盛なんてどうだ?」
「お呼びになりましたか父上?」
たった今話題にされた知盛が、御簾(ミス)を押しのけどこからともなく現れた。
隠れるようにして几帳(キチョウ)の裏にいる輔子からは、その姿は見えない。
「おお、知盛。そなた、妻を娶(メト)るつもりはないか?」
「…父上、私にはすでに正室がおりますが…?」