夜籠もりの下弦は恋を知る
「私は気にしておりませぬ!重衡様がどれだけ遊んでいようと構いませぬゆえ」
「~っ、佐殿…」
重衡は怒りを鎮め、その場に座る。
「良かったな。寛大なお方で」
「お恨みしますよ兄上。妻の前で恥をかかされて黙っている私ではないですからね」
この報復は後日、と重衡は真っ黒い腹の中で考えた。
「フッ、まだ妻ではないだろう?気が早いな」
知盛も負けじと言い返す。
「輔子殿、こんな息子だが、よろしく頼むぞ」
「は、はい!」
清盛が上手く話をまとめ、輔子がそれに同意する形で決着がついた。
(重衡様が…私の夫…)
憧れの存在で、手の届くことはないと思っていた彼。
親の意思もあり、自分の恋心など捨ててしまおうと思っていたけれど。
(政略結婚のお相手が重衡様ならば…)
これ以上、自分にとって喜ばしいことはない。
「重衡様。何とぞ、よろしくお願い申しあげます」
綺麗な動作で深々と一礼する。
そんな彼女を、重衡は几帳ごしに少し照れた様子で見つめていた。