夜籠もりの下弦は恋を知る


 さらに翌日のこと。

輔子の勤め先である内裏に、ある噂が流れた。

「中納言局(チュウナゴンノツボネ)殿が重衡様と…!?」

「昨夜、重衡様がお通いになられるところを誰其が見たとか!」


女房達の間で瞬く間に広がったこの噂は、当然輔子の耳にも届いてしまった。

(………き、気にしませぬ…!)

輔子は「女は強く!心は鋼!」と自分に言い聞かせ、仕事に集中しようとしたが…。

「これはこれは、大納言佐殿…」

意外なことに、バッタリと噂の中納言局と鉢合わせしてしまった。

(ひいぃ!?)

最悪なるタイミング。

どうして今日に限って出会ってしまったのか…。

(わ、わざと…?だって、中納言局殿は普段こちらに用はないでしょうし…)

内裏勤めは同じだが、仕事場が違えば関わりがない女房も多くいる。

中納言局も輔子にとってそんな女房の一人だ。



ゆっくり一礼して、互いに通り過ぎていく。

輔子は後ろを振り返り相手の姿が完全に見えなくなると、あからさまにホッとした。

(ふう…良かった…。何か嫌みでも言われるかと思った…)

安心はしたものの、胸のもやもやは晴れない。

(……調べてみようかな)

輔子は中納言局について、自分の女房に尋ねることにした。










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