夜籠もりの下弦は恋を知る
「何で揚羽が配ってんの?」
「アタシ日直でさ。さっき担任からプリント押し付けられたんだよ」
揚羽は会話をしながら列ごとの人数を数え、プリントを分けていく。
「古文か…」
(どれどれ…)
潤はプリントを見た。
「え?何これ?」
そのプリントには問題が書かれているわけではなかった。
文章のみ。
「ただ訳せって?」
「そうみたいだね。結構量あるからめんどくさい」
確かに面倒、と思いつつ内容に目をやる。
(…しかもこの古文、平家物語じゃん)
副題に「先帝身投(センテイミナゲ)」、「能登殿最期(ノトドノサイゴ)」とある。
「平家物語って久々だよね。中学の頃、那須与一(ナスノヨイチ)やったの覚えてるよ」
揚羽が潤のプリントを覗き込んで言った。