Diva~見失った瞬間から~

…………で。

結局私は今、練習室Cにいます。


入った瞬間、

懐かしい独特の匂いがした。

……まだ、この匂いなんだ。


『カナッ!!新しいのどうなった?』

"彼女"は、

私に笑顔で駆け寄ってくるの。

あの紙を受け取る度に、

嬉しそうに微笑むの。


「カナ。」


「………っ、うん。」

一瞬"彼女"かと思ったけど、

私を呼んだ声は艶やかな男声だった。


「終わったら話すから、聴いてて。」

片手にギターを持ちながら、

彼は微笑んだ。

ギターを持つ姿は、

とても絵になっていた。


「……うん。」

やっぱり、葉月君の微笑みには、

「うん。」と言わせる何かが有る。


ふと、周りを見ると、

真川さんがキーボードの前に立ってて、

西谷さんがベースを持ってて、

河崎さんがドラムの前に座っていた。


………バンド、だ。


「じゃあ、行くぞー。」

河崎さんが声を掛ける。

そしてドラムの枠を叩き、

乾いた音が出た。


《カンッ、カンッ、カンカンカンッ》

この音が、始まりの合図だった。





< 104 / 500 >

この作品をシェア

pagetop