Diva~見失った瞬間から~
…………で。
結局私は今、練習室Cにいます。
入った瞬間、
懐かしい独特の匂いがした。
……まだ、この匂いなんだ。
『カナッ!!新しいのどうなった?』
"彼女"は、
私に笑顔で駆け寄ってくるの。
あの紙を受け取る度に、
嬉しそうに微笑むの。
「カナ。」
「………っ、うん。」
一瞬"彼女"かと思ったけど、
私を呼んだ声は艶やかな男声だった。
「終わったら話すから、聴いてて。」
片手にギターを持ちながら、
彼は微笑んだ。
ギターを持つ姿は、
とても絵になっていた。
「……うん。」
やっぱり、葉月君の微笑みには、
「うん。」と言わせる何かが有る。
ふと、周りを見ると、
真川さんがキーボードの前に立ってて、
西谷さんがベースを持ってて、
河崎さんがドラムの前に座っていた。
………バンド、だ。
「じゃあ、行くぞー。」
河崎さんが声を掛ける。
そしてドラムの枠を叩き、
乾いた音が出た。
《カンッ、カンッ、カンカンカンッ》
この音が、始まりの合図だった。