Diva~見失った瞬間から~
「知ってる。カナ。」
「あ、はい。」
葉月君の声で突然呼ばれると
やっぱり何度目でもびっくりする。
「その椅子に座って。
完成した曲を演奏するから。」
「うん。」
指定された椅子を見た。
今、西谷さんが座ってる所だと思う。
「シン、カナを放せ。」
「分かってるし。」
真川さんの腕から解放された私は
西谷さんの座ってる椅子の方に
移動する。
ポフッと座ってみると、
見た目よりも柔らかくて、
心地が良かった。
「今度は泣くなよ。」
ポンポンと椅子に座ってた
西谷さんが私の頭を数回軽く叩くと、
椅子から立ち上がって、
皆の方に行った。
アレ、無意識に流れたモノだから、
今回はどうなるのか分からないなぁ。
ホント、
皆の前で泣くのだけは私も嫌だ。
泣き顔程他人に情けないものは無い。
「…この前のはまだ未完成だったの?」
西谷さんが
ベースの準備をしているから、
私は少し気になった質問をした。
「この前のはまだ完璧じゃなかった。
昨日に変更した所も有るし。」
「…………そう。」
私が質問をしている間に
西谷さんの準備が終わっていた。
「じゃあ行くぞー。」
河崎さんの少し緩めな声がかかる。
そして。
《カンッ、カンッ、カンカンカンッ》
音楽は始まりを告げた。