Diva~見失った瞬間から~

その部屋の、ドアは開いていた。


止めどなく

奏でられるピアノの音の音源は

やっぱりその部屋だった。


《――…。》

私は開いているドアからそぅっと…

中に入る。


うちのピアノは、

奏者がドアに背を向けるように

置いてある。


昨日見たときは…

薄く埃を被ったカバーに包まれて

静かに佇むピアノが目に入った。


でも今は…

今私の目の前にあるピアノは、

静かに佇むピアノのではなくて。

奏者によって奏でられる音によって

輝いているピアノがそこにあった。


ピアノの奏者の椅子に座っているのは

鈴…ではなく、葉月君だった。


《――…。》

葉月君が、何で。


《――…。》

何でこの曲を弾けるの…?


「………は…づき…君…?」

夢中でその曲を奏でる彼の背中に、

私はいつの間にか話し掛けていた。


「…………カナ。」

彼は一瞬肩を強ばらせたと思うと、

後ろをゆっくり振り向いて驚いていた。



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