Diva~見失った瞬間から~

「……その…その曲は…っ…。」

2度と聴くことの無いハズの曲。

2度と演奏することの無いハズの曲。


私が、"彼女"に贈るハズだった。

歌詞と言う名の

言葉を付けて歌にするハズだった。


でも………。


「……間に合わなかった…曲…なの…。」

作りかけで、未完成で。

完成することの無い曲。


「……カナ?」

何で私は、

葉月君にこんなことを言ってるの。


涙は出ない。

きっと枯れてしまったんだ。

別に、困りはしないだろう。

これから先。私の未来に

あれ以上の哀しみは無いだろうから。


「カナ。」

ヒヤッ…と

私の頬に冷たいモノが触れた。


床に向けていた視線を上げると

そこには…

綺麗で儚げな表情の葉月君が居て。


頬に触れたのは、葉月君の手だった。

前もあったかも…こんな状態。


「寝なよ。熱、下がってないし。」


「…………。」

大きな手が、私の頬を優しく撫でる。


「………はづき…君…。」

私は、無意識に

その大きな手に私の手を重ねていた。




< 168 / 500 >

この作品をシェア

pagetop