Diva~見失った瞬間から~
「おまっ…何でこんなとこに…。」
ドクン。ドクン。
ヤバい。視線が全然上がらない。
葉月君はどんな顔をしてるの?
目の前のこの人はどんな顔をしてるの?
「お前…、戻ってきたのか?」
「………、ち、違うっ…。」
やっとの思いで絞りたじた声は、
自分でもびっくりするくらい
弱々しくて。
葉月君、葉月君。
葉月君…あなたは今、
どんな顔をしてる?
すぐ横に居るのに、見るのが怖い。
葉月君の顔を、
表情を見たいと思うのに、
見て絶望するのが怖くて見れない。
「ケイ…お前。」
止めて。その名で呼ばないで。
私はもう"奏乃"なの。
これから先…"ケイ"になることはないの。
スッ…と、
私は無意識に横に視線をずらした。
不思議。意識すると怖くて堪らないのに
無意識だとこんなに
簡単に見ることが出来る。
視線だけをずらして…
私が見た葉月君の表情は
………驚愕…と、言ったところだろう。
絶望は…しない。けど、私とこの人が
面識を持つことを知られてしまった。
この人と面識を持つ人なんて、
そんなにたくさん居ないのに。
「……葉月、ちょっとコイツ借りるぞ。」
「え。ちょっと…。」
止めてくれたのは葉月君。
私は抵抗することも出来ない。