Diva~見失った瞬間から~
「ホントは…ホントはさ…。
鈴のためだけじゃなかったんだろ?」
葉月君の大きな手が私の頬に触れる。
指先は、少し冷たく感じた。
「鈴が居ないステージが、怖かった。
そのこともあったんだろ?」
頬を優しく撫でる手は、
優しさに満ちている。
「……カナ。
ここには、俺しか居ないよ。」
「………。」
葉月君の瞳は、綺麗なブラウン。
その瞳は、私をちゃんと映してくれる。
「吐き出して良い。」
「な、何を…。」
駄目。駄目。
これ以上、あなたに優しくされたら。
私はきっと弱い所を見せてしまう。
弱い所を見せてしまったら、
私は私ではなくなってしまう。
私はせめて、あなたの前では
"私"でいたいと思うのに。
「私は、何も…っ。」
「カナ。」
ふわり。
安心する温もりと、薫りが私を包む。
こんなに…
安心する場所があったんだ…。
そこは、鈴とのステージと同じくらいの
安心感があって。
ここが葉月君の腕の中だと知るのは、
数秒間が過ぎ去ってからだった。
「カナ。俺は…受け止めるから。
お前が何を言っても失望も、
軽蔑もしない。」
ぎゅう…と、私を包む葉月君の腕の力が
少しだけ、強くなった。
「だから、強がらなくても良いんだよ。」