Diva~見失った瞬間から~
事務所の扉をくぐった私の視線の先には
目を見開いて驚いている柚唯君が居た。
言わなきゃ…。
言わなきゃ、いけない。
「あ、あの…っ…。」
でも、
もう少しの所で私の喉が動かなくなる。
声を、声を出してよ。
言わないといけないの。
ぎゅう…。
右手に少し、力が入った。
私よりも大きな手を私は握り締めた。
すると、その大きな手も、
私の右手を優しく握り返してくれた。
安心…する。スッ…と、
喉に突っ掛かるモノが無くなった。
「私は、歌いたい…で、す…。」
喉が自由になっても、
情けないぐらい
震えた声になってしまった。
「私、もう1度…歌いたい…。」
俯いちゃ駄目。ちゃんと言うの。
葉月君と、約束したんだから。
「私は、もう1度。
歌っても良いですか…?」
言い切った。
3年間、自分自身で消した想い。
開けてはならないと、
自分に言い聞かせた
大事な大事なあの箱を、私は開けた。
封印仕切れなかった、想いと共に。