Diva~見失った瞬間から~
「いくら私が過去に歌っていたとしても、
それはやっぱり"過去"でしかない。
今もまだ、
私が歌えるとは限らないでしょ?」
私がどんなに
沢山の歌を歌ったとしても。
どんなに沢山の人から
声援を受けたとしても。
それは、
ここにいる"相澤奏乃"じゃない。
"エル"と共に歌った"ケイ"なんだよ。
「私はもう、"ケイ"じゃないんだよ?
そんな私に…こんな大事なこと…。」
「だから何?」
俯き気味だった顔を上げると、
さっきまで
下げていた頭を上げた優杏が居た。
「私達は、
"歌姫のケイ"を求めてるんじゃない。
今、ここに居る"相澤奏乃"。
あなたの歌を私達は求めてるんだよ。」
「……。」
「お願い。奏乃。」
優杏は、その温かい手で私の手を包む。
葉月君とは違う、
私とさほど変わらない大きさの手で。
「信じて。」