Diva~見失った瞬間から~

舞台裏ではスタッフさん達が

様々な準備を施していていた。


「Canzoneさん!舞台の5分前に

会場全体の照明落とすから、急いで!!」

……つまり、あと3分くらいで

舞台に上がるってこと?


「………。」

どうしよう。

今更、また不安になってきた。


皆は、

それぞれで自分の楽器を準備している。

私は歌うだけだから、何もしてない。


今更、怖くなってきた。

私、ちゃんと歌えるのかな…。


「照明落とすよ!

舞台の床にある光を頼りにステージで

立ち位置にスタンバイしててね!」

……震えてきた、かも。

情けない。


…………怖い。

もし私が…失敗してしまったら…。


《ヴーーーー》

照明が、落ちた。


《ギュッ…》


「…は…。」

突然何かに包まれた。

後ろから

誰かに抱き締められているみたい。


フワッと鼻をかすめたのは、

シトラスの香り。


「………葉月…君?」

この香りは、葉月君の香り。


「……カナ…。」

その声は、酷く掠れていて。


「大丈夫だから…。」

普段の低くて甘い声なんかじゃなくて。


「俺らと、一緒に歌おう。」

でも。


「俺らが…カナを導く"音"を出すから。」

私を抱き締めてくれているのは、

他の誰でもない、葉月君だった。


「テン!ソウ!早く!!」

優杏に…シンに呼ばれる。


「今、行く。」

私は口でそう言いながら、

葉月君の手をギュッと握っていた。


「ありがとう。葉月君。」

聞こえるかも分からない程、小さな声。


私は葉月君の手を離して、

舞台に走った。


不思議。もう怖くない。

だって、皆が居るから。



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