Diva~見失った瞬間から~
………なんだか、楓が可愛い女の子に
チョコを貰う姿が頭に浮かんで、
思わず涙が出そうになった。
「どうしたんだよ、歌音…。」
優しい大好きな声を聞いて、
さらに泣きたくなった。
でも、言わなきゃ。
「あのね、楓…。」
伝えなきゃ。
私は楓に頭を下げる。
「ごめんなさい…。」
真っ黒なアスファルトに
丸い染みが出来た。
私の瞳からは涙が溢れていた。
「……何に対して謝ってる?」
次に聞こえた楓の声からは、
優しさが無くなったように感じた。
「……ちょ、チョコ…
渡さなかった…こと。」
私は頭を下げたままだ。
楓は、次になんて言うんだろう。
怒ってるよね。
怖い…。
楓にだけは、嫌われたくないよ…。
「歌音。1回頭あげて。
何でチョコ、俺に渡さなかったんだ?」
「…………。」
バレンタインデーを忘れてた…なんて、
女の子失格じゃん…。
「俺にはもう、チョコくれねぇの?」
「ち、違うっ!」
どうしようどうしよう…っ。
こういう時の
上手な言い訳が思い付かない。
「じゃあ何で?」
「あ、あ、あの…っ…。」
正直に話さなきゃって思ったけど、
こんなに女の子失格な自分を
知られたくない。楓にだけは…。
「他の奴に渡したから?」
「違うっ!」
「じゃあ何で?」
あぁもう、限界…。これ以上、
楓に嘘なんてつきたくない…。
「……カレンダー…
見てなかった…の…。」
最後まで私は可愛くなくて、
直接"忘れた"と言えなかった。