イズミの主義



すると抱きしめる力は少し弱まって




「母さんはちっちゃいとき出てったきり、オヤジは金入れるだけでたまにしか帰って来ねぇー」




初めて聞く声にドキッとする


聞いてはいけないこと…



踏み入れてはいけないところ…





「ご、ごめん」



「もーなんで泉チャンが謝んの?こうやって泉チャンが看病してくれたからラッキーかも」



そう言う桐原は俺様でもなく、真剣でもなく、初めて会った時のようにチャラい言い方




それでなんだか遠く感じる…


でもなんでそうするのかはもう知ってる





わたしに気使ってる

強がってるんだって…




「はーい、今日はここまで。アリガト泉チャン。送ってくよ」



ほら、これも強がってる




もうわたしにはわかる




だって桐原と知り合ってから毎日桐原のこと見てきてんだもん




「桐原…」



「ん?」




でもわたしにはそんなの言う資格なんてない


わたしにとって特別でないんなら"力になる"方が桐原にとっては迷惑な話





「…おだいじに」




そう言って玄関から出た瞬間




ザーザーザーザー






「うわぁーーー」
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