コンパス〜いつもそばで〜

その選手は、コウくんの声にこちらへとやって来てくれるけれど、周りの人たちにサインをお願いされ、


「ちょっと待っててな」

とわざわざこちらに声をかけて、声をかける人みんなに丁寧に対応していた。



「ごめん、おまたせ」

そう言って目の前に来てくれた石本と言う選手は、以前、ここに一人で来た時に宮下くんたちとリフティングゲームをしていた中の一人だった。


そんな彼に、いつの間に用意していたのか色紙にサインをお願いしたコウくんは、書いてもらった色紙を受け取りお礼を言うと、


「宮下選手は、怪我ですか?」

と聞いた。


「そう。軽い捻挫」

彼の言葉に、大きな怪我じゃなくてよかったと思う気持ちと、大丈夫かな?と不安の気持ちが入り交じる。


「大丈夫なんですか?」

気づけば無意識に声を出していた。

「ん?」

覗き込むように見られ、こんなこと、この人に聞くことじゃないのにと言った言葉を後悔する。

「あっ、なんでもないです。ごめんなさい」

そう言って頭を下げれば、優しい言葉が頭の上から聞こえてくる。


「ヒデならすっげー元気だし、安心して」

その言葉に顔をあげると、大丈夫だよというようににっこりと笑ってくれた。

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