コンパス〜いつもそばで〜
「あんた、前田の何?」
自分でも驚くくらい低い声が出た。
他の男が彼女を知ってるなんて、なんとなく面白くない。
前田には前田の友達関係があるんだから、この人が彼女のことを知っているのも不思議じゃないけれど、それでも、やっぱり男の口から彼女の名前が出てきたことが面白くないんだ。
そんな俺の顔を見て、プッと吹き出したタカシは、
「ヒデちゃん可愛い〜」
ってからかってから、
「もしかして、彼氏さん?」
俺が一番知りたいことを、いとも容易く聞いた。
「違いますっ、違いますっ!俺はただの友達です」
「“ただとも”ねぇ」
タカシの意味深にそう言いながら、俺をニヤニヤした顔で見てくるから
「なんだよ」
と、声を出すと、隣の席の彼が、「本当に、ただの友達なんですって」って焦ったように声を出して話し始めた。