コンパス〜いつもそばで〜


「そっかぁ。前田が幼稚園の先生かぁ」

「はい」


懐かしい生徒を前に、目を細めてにっこりと笑みを浮かべた二年前の教師は、

「おめでとう」

と言って手を差し出した。


「あ、ありがとうございます」

なんだか改まって変な気がしたけれど、先生の手を握り握手をすると、二年前、こうやって卒業式の日に『頑張れよ』と握手を交わしたことを思い出した。



あれから、もう二年
まだ、二年


よく分からない感情のまま手を離すと、

「で?どうした、今日は」

ここに来た理由を聞いてくる西口先生に


「なんとなく、懐かしくなって来ました」

と素直に答えた。


「変わってないですね、ここ」

「そりゃそうだろ。まだ二年しか経ってないしな」

そう言って笑った後

「でも、前田は変わったな」

って言葉を足した。

「え?」

変わった?どこが?

あぁ、制服着てないから?
少しだけ化粧してるから?


「いい顔してる」

とよく分からない返事が返ってきて

「はぁ」

としか答えられなかった。


「中、見ていくか?」

先生に校舎の中に入るか聞かれ、

「じゃあ、少しだけ」

と答えた私は、見てみたかったのかもしれない。

宮下くんと過ごした教室を

宮下くんとの思い出を


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