コンパス〜いつもそばで〜
――――……

「ちょっ!沙耶。どこ行くの?」

「ん?ちょっとそこまで〜なんて。いいから、いいから、黙って着いてきてって」


いつも行く難波の地下街を通り抜け、沙耶は、ぐんぐん先を行く。


今日は一緒にお昼ご飯を食べて、その後、難波でふらふらと買い物をしようって話していたのに、一体何処に行くのだろう。


「明日美が行きたい場所に連れていってあげる」

だって、今日は明日美の誕生日だしね


そんなことを言って地下鉄に乗り込む沙耶に黙って着いて行く。


行きたい場所?

今、行きたい場所なんて、何処?


自分で自分に問いかけてみても分からない。



「さっ、降りるよ」

そう言って、沙耶に連れられて降りた駅の構内には、“エマーティ大阪”のポスターがずらり。


ここって、もしかして……


「沙耶、ここ……」

エマーティ大阪の?

「ん?バレた?エマーティ大阪のホームスタジアムの直ぐ傍の駅。ここを出て、公園を突き抜けると、スタジアムが見えるの。
今から、試合観に行くよ!」

「え?」

「だから、試合!宮下選手のプレー見たいでしょ?」

宮下くんのプレー

観たいか観たくないか、答えは直ぐに出てくる。

観たい……宮下くんのプレーを。
頑張っている姿を。
あの頃みたく、一生懸命ボールを追いかけている姿を、ブラウン管を通してではなく、この目で直に観たいって思う。
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