コンパス〜いつもそばで〜

「悔しかったなぁ。あの時。けど、アイツ止めたくて、必死で練習してさ、これでもかってくらい練習したのは、中学ん時かな」

「アイツともう一度出来たのは、高校一年なった時だったよ」


あの頃……

私が宮下くんと出会った頃、彼も、また、宮下くんと再会して、対戦していたんだ。


「試合する前の日なんて、すっげーワクワクしてさ、まるで彼女との初デートかってくらい、なかなか眠れなくてさ。
で、実際対戦したら、アイツは、一層上手くなってた。
実際さ、もう世代別代表にも選ばれていたし、俺らなんて太刀打ち出来ないって分かってたのにな。
けど、やらなきゃ分かんないとこあるだろ?
で、やってみたら、やっぱ、スゲーの一言だったわ」


「梶野くん……」


「俺がさ、プロを諦めたのもアイツと対戦したから。やっぱ、天才には、何をしても勝てないんだよな」


“天才”

その言葉に違和感があるのはなんでだろう。

宮下くんは、世間からみたら天才かもしれない。でも、あの頃の宮下くんを知ってる私には、“天才”って言葉は、違うような気がして……


「……違うよ」

「ん?」

「宮下くんは、天才じゃないよ」

そう言っていた。

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