コンパス〜いつもそばで〜
「宮下くんが天才だとしたら、きっと“努力の天才”なんだよ」
あの頃の彼の言葉を思い出す。
“俺、そんな俊足じゃないからさ、技術でカバーしなきゃ”
“努力するしかないんだよな。必死ではいつくばるしか、さ”
“俺って負けず嫌いだからさ、いつか絶対自分が活躍してやるって思ってるんだ”
彼は、天才なんかじゃなく、誰よりも練習をして、誰よりも上に行きたくて、必死で頑張っていたの。
だから、今の彼があるんだと、そう思うのです。
「すげーな」
「うん。すごいよ彼は」
きっと誰よりもキツい練習をして。でもキツいなんて感じるよりも、サッカーが好きだから。だから続けられたんじゃないかな。
「いや、そうじゃなくて……」
苦笑いをした梶野くんの言葉が分からなくて、首を傾げると、
「宮下のこと、好きなんだな」
梶野くんの言葉に、ぼっと火が付いたように頬に熱を持った。
いきなりでストレートで、恥ずかしくて、だけど、この気持ちは隠すものでもないと、こくりと首を縦にして頷いた。