コンパス〜いつもそばで〜
「参ったな……」
その言葉の意味が分からなくて、梶野くんを見れば、自分の短髪を手でくしゃくしゃと掻いて、こちらを見た。
「なんか、妬けるな」
と、またよく分からない言葉を投げかけた。
「ん?」
何が?
首を傾げる私を見た後、ピッチに視線を移し、ふぅ〜、と息を吐き出して
「二人に嫉妬してる」
そう呟いた。
「梶野くん?」
「宮下のことをそう言える前田と、そう言ってもらえる宮下に、なんか嫉妬した。
俺にはさ、そんなヤツいなかったし」
そんなことを言われて、なんて言ったらいいか分からなくて、言葉を探すけれど、簡単には出てこなくて、黙ってしまう。
そんな空気を察したのか、梶野くんが、
「なんてな。あっ、そうそう。今日は、宮下、ベンチスタートだって。でも、俺の予想じゃ、後半すぐにでも出てくると思うよ」
そう言って話題を変えてくれた。
「色々言ったけど、俺は宮下を選手として好きだし、尊敬してる。オリンピック代表に選ばれても不思議じゃない。そう思ってる。
去年の怪我さえなかったら今ごろ代表になってるヤツだよ、アイツは。
だから、アイツには頑張って欲しい。代表になってほしいって話」
分かった?
そう言うから、うん、と大きく頷いた。
「さっ!佐野たちのとこ行こっか」
「うん、そだね」
ねぇ、宮下くん。
あなたを応援している人が、ここにもいたよ。
あなたを小さい頃から知って、あなたと同じようにサッカー好きな人が、ここにいるの。
彼の願いは、叶わなかったけれど、その夢、あなたの背中に見てくれているのかもしれないね。
もうすぐ、あなたの試合が始まる。