コンパス〜いつもそばで〜
≪宮下秀之≫
――――……
前田の友達だという男から受け取った前田の携帯の番号。
自分の携帯に登録をしたのはいいが、電話をかけるタイミングをずっと失ったまま。
でも、今日は前田に伝えたかった。
スタジアムにまで足を運んでくれた前田に、伝えたいことばかりあるのに、本当に電話をしていいのか分からなくなる。
そもそも、この連絡先は彼女本人から聞いたものじゃないわけだし。電話したところで迷惑だったらと思うと、前田の番号をディスプレイに表示したところで、通話ボタンが押せない。
「な〜にやってんだよ、ヒデ〜」
そんな俺の様子をロッカールームで楽しそうに見ていたタカシが言ってくる。
「早くしないと、みんなバスに乗り込むぞ」
「分かってるよ」
携帯をズボンのポケットに片付け、荷物を持ってバスへと向かおうと立ち上がる。
「あれ?かけないのか?前田さんに」
「後でな」
「後で後でって言って、結局かけずに終わるパターンか?それでいいのか、ヒデ。男なら男らしく根性見せなきゃ」
半分真剣、半分冗談っていう風に笑うタカシの言葉が胸に痛いくらい響く。
「けど、ムラさんたち待たせられねえだろ?」
先輩より早くバスに乗っておかないと
「だな〜。じゃ、後でってことで、行くか」
「おぅ」