コンパス〜いつもそばで〜
「まだだろ?前田のお目当て終わってない」
コウくんが言ってるのは、彼のこと。
「私は、いいって」
「なんで?」
「……」
なんでって言われても答えられないのは、自分の気持ちが分からないから。
多分、こわいんだよ。
もし、会って、覚えてなかったら……
覚悟していることとはいえ、やっぱり悲しいから。
誰?みたいな顔されたら泣きそうになるから。
「よくないだろ?」
「……」
このまま帰っていいの?
そう自分に問いかければ、このままじゃ駄目だと思う。中途半端にこそこそ見に来て。
それならば、ただの一ファンとして接すればいい。コウくんのように、ファンの1人として彼の目の前にいけばいい。
そう分かってるのに、動けないのは、彼をそういうプロ選手として特別にみたくないから。
私は、まだ四年前の同級生としての宮下秀之にこだわっているんだと思う。