コンパス〜いつもそばで〜
「宮下選手〜!」
クラブハウスから彼が出てきたのだろう。
彼を呼ぶ声があちこちで聞こえてきた。
練習を終えて私服に着替えた彼が、その声に応え、ファンの子たちの元へ行きサインを書いたり写真を撮ったりと、ファンサービスを始めた。
「宮下選手サインください」
「宮下選手」
「宮下選手っ」
次々と呼ばれる声に一人ずつ対応していく彼の姿を見ていると、四年前の彼だけれど彼じゃない気がして、胸がざわざわとうるさかった。
なんだろう
私の知ってる彼は、こんなんじゃない。
今の彼は、遠い。
隣で笑い合って、語り合って、すぐ身近に感じた彼とは違う。
あの頃みたいにきさくに話しかけちゃいけないような、そんな気がして、寂しさも感じた。