コンパス〜いつもそばで〜

そうして、私たちの目の前にやって来た彼に、


「あっ、宮下選手、サインください」

そう言って色紙を差し出したのは、コウくんだった。


彼は私なんて見てないんだろう。ただ、目の前の色紙だけを見ているふうで、目を合わそうともしない。


サラサラと慣れた手つきでサインを書くと、ペンをコウくんへと返した。


「ありがとうございます」


お礼を言いながら、コウくんは私の腕を肘で痛いくらいに何度も小突く。

それでも何も言わず何も行動を起こさない私に、痺れを切らして

「ほらっ、握手でもしてもらえって」

そう言ったコウくんの声が聞こえていたのか、目の前の彼が自分から手を差し出してくれた。



大きな手

差し出された手はあの頃と同じで、だからかな?反射的に手を出したのは。


あの頃の温もりを、今も変わらない温もりに触れたかったのかも。


< 43 / 184 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop