コンパス〜いつもそばで〜
そうして、私たちの目の前にやって来た彼に、
「あっ、宮下選手、サインください」
そう言って色紙を差し出したのは、コウくんだった。
彼は私なんて見てないんだろう。ただ、目の前の色紙だけを見ているふうで、目を合わそうともしない。
サラサラと慣れた手つきでサインを書くと、ペンをコウくんへと返した。
「ありがとうございます」
お礼を言いながら、コウくんは私の腕を肘で痛いくらいに何度も小突く。
それでも何も言わず何も行動を起こさない私に、痺れを切らして
「ほらっ、握手でもしてもらえって」
そう言ったコウくんの声が聞こえていたのか、目の前の彼が自分から手を差し出してくれた。
大きな手
差し出された手はあの頃と同じで、だからかな?反射的に手を出したのは。
あの頃の温もりを、今も変わらない温もりに触れたかったのかも。