コンパス〜いつもそばで〜
ぎゅっと力強く握られた手に
「あ……」
何か話さないと。と思ってしまったのは、その手の温もりが、今も変わらずここにあったから。
ねぇ、宮下くん
私のこと、覚えてますか?
四年前、一緒に過ごした日を思い出すことはありますか?
「あのっ!私っ、前田明日美って言いますっ」
咄嗟に出たのは、何故か自分の名前。
何を話そう、何から話そうと色々考えていたのに、なんで、ここで自己紹介なんてしてるんだろう。
目の前の彼は、驚いたように一瞬、目を見開いた気がした。
「あっ……、サッカー、頑張って、ください」
もう、恥ずかしくて穴があったら入りたい気分だよ。
彼は、ふふっと笑ったように口元を緩ませ、
「ありがとう」
とそう言うと、手を離して隣の子へと移動し、何事もなかったように、ファンサービスをしていた。