コンパス〜いつもそばで〜
【2】
≪前田明日美≫
彼、宮下秀之が毎日練習しているエマーティ大阪のクラブハウスから私のアパートまでは意外と近く、電車で一本。
いつも利用する駅から各駅停車で六つ目の駅を降りて5分ほど歩いた距離にその場所はある。
それが分かったのは、宮下くんと握手を交わしたあの日の帰り道。
コウくんが、車で回り道をしながら教えてくれたから。
「前田のとこから近いんだから、いつでも行けるだろ」
「……そだね」
そう返事をしたものの、きっと、もうあそこに行くことはないだろう。
あの場所にいる彼は、彼だけど私の知らない彼だから。
四年前の彼じゃなく、プロサッカー選手としての宮下秀之だから。
だから、なんとなく近寄れない。
そう思っていたのに……
私は、彼の姿を見に行った――……